良い兄さんの日ならくがき、弟組とアイオロス2本立てです。
一発書きなのでいつもに輪をかけてあれですがおつまみにでもなれば幸いです。
カノンと瞬とアイオリアと
強くて、かっこよくて、優しい。
良いお兄さんじゃないですか、と彼女が羨ましそうに言うので、カノンはならば俺と結婚すればあれが義兄になるぞ、あれでよければな、と冗談めかして持ちかけた。
「……その手がありましたね」
すると彼女が意外なほど真面目な顔になるものだから、本気で事が運べるのではとカノンが思った刹那。
「それならボクとはどうですか? 一輝兄さんだって、とても強いしかっこいいですよ」
なにより、とても優しいもの。
人好きのする微笑みを浮かべて亜麻色の髪の少年がひょいと割って入る。おお、と感心する彼
女には見えないように、瞬がカノンに向かって「譲りません」とでも言うような視線を送ってく
るのだから、なるほどあのフェニックスの弟だとカノンは内心歯ぎしりした。
これだから青銅のヒヨコたちは侮れない。ついでに書庫番よ、お前本気でいくつも年下のやつ
を旦那や義兄と呼ぶ気か、とカノンは突っ込みたい。
大人げなく一四歳かそこらの少年と火花を散らしているカノンと、なにやら真剣に考え込んで
いる書庫番の元へ、更にややこしいことを言う人物がまた一人。
「……兄ならばアイオロス兄さんとてサガや一輝に負けない良い兄だぞ」
「ということは、アイオリアのお嫁さんになれば……?」
完全に誘導した感しかしないが建前上は兄を立てている点でカノンとは天と地の差だ。ある意味兄弟のあり方の違いとも言える。
うむ、と満足げに頷いたアイオリアは彼女との付き合いが抜きんでて長い。勝ち誇ったように堂
々たる小宇宙で瞬とカノンを圧倒するので二人は揃ってうう、と小さく唸った。
「どのお兄さんも、旦那さんも魅力的で決められないわ」
のんびりと夢見るように彼女は笑う。
その笑顔にさて、互いに交わす攻撃的小宇宙は一層燃え上がった。他愛のない戯れのやりとりで
はあるはずなのに、どいつもこいつも本気の様相。
まったく、この娘がなにより恐ろしい、と一部始終を離れたところで見ていた兄達はそっと思うのである。
アイオロスと
兄と呼んでも良いですか、と血縁もなく人種も性別も生い立ちもなにもかもが違う書庫番娘から言われてアイオロスは戸惑った。
「俺は君の兄じゃないが……」
「今日だけ! むしろ一回でいいですから!」
聞けばずっと「兄」という存在に憧れていたのだとか。
友人として親しいアイオリアからアイオロスのことを聞かされて、かついつも優しく力強く励ましてくれるアイオロスは自分にとっても理想の「お兄ちゃん像」なのだと彼女は随分な熱を込めて力説した。
こうまで一生懸命に褒められるというのも滅多にないもので、それが憎からず想っている相手とあらばアイオロスも悪い気はしない。
それどころか、一回くらいなら別にいいだろうとも思えてくる。
「仕方ないな、一回だけだぞ」
くしゃりと「兄らしく」髪を撫でて幼子にするように目線を合わせると、彼女は嬉しそうにはに
かんで、
「ふふ、お兄ちゃんの手は大きくてあったかいですね」
なんて言うものだから、つい不覚にも、なにかあらぬ方向へ目覚めそうになったアイオロスである。
(終)
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