キスの日だったらしいのでちまちま書いてたら日付変わったけど勿体ないから出しちゃいます。
この格言は嵌ったジャンルにつき一度はやらねばという謎の使命感を持っています。
22題のやつは数多くて大変だから格言のみです漏れちゃった人選すみません。
お相手はカミュ、アイオリア、デスマスク、童虎、カノン、シュラ、黒サガ。
シュラがちょっと大人向け、黒サガは暗いです。
1、手なら尊敬(カミュ)
カミュは娘の手を見て内心驚いた。かさついているのは紙を扱うせい。真新しい小さな切り傷は紙の端や書架の整備の時に書棚の棘やささくれで引っ掛けたり切ってしまうのだと言う。
楽な職だと思っていた訳ではない。けれど想像よりずっと労苦の痕の残る手に、改めて彼女への敬意と愛情が込みあげカミュはその指先へそっと口づけを落とす。
2、額なら友情(アイオリア)
余りに無防備であどけない顔をしていたものだから、衝動的に円やかな額に唇で触れた。
「ちょ、アイオリア、急にどうしたの」
「いや、その。……ああ、俺とお前なら、ここが一番適切なのだろうと思ったんだ」
額なら友情。彼女はアイオリアを友だと言う。アイオリアもずっとそう思っていた。それが変化し始めたのがいつだったのか定かではない。
しかし、己を友と信じてくれる彼女へのこの感情は、まるで裏切りであるように思えアイオリアは今もそれをひたと隠し続けていた。それも限界にきていることは確かだ。元来それほど気の長い性質でないことは自分が一番わかっている。
後ろめたさと他者への優越感を同時に抱き、この友情ごっこをいつまで続けられるのだろう。
3、頬なら満足感(デスマスク)
腰を抱いて、こつり額と額を合わせると彼女の瞳がきらめきながら男を映した。
さて長く深く触れようかと唇をよせようとしたのに、ふいに彼女はそれを制してデスマスクの頬にキスをした。デスマスクは僅かに瞠目した。彼女からキスされたのは初めてだったのだ。
たかだか頬に、押し当てるだけのなんともかわいい戯れである。だというのに湧きあがる照れ臭さ。同時に満たされてゆく幸福感。本当に敵わない。
4、唇なら愛情(童虎)
「あー、なんだ、その、目を閉じてくれんかのう」
「? はい、わかりました」
晴れて200歳以上年下の娘と恋人同士になったは良いけれど、何をしてやればいいかさっぱりわからない童虎である。
彼女は何も求めて来ない。いつも朗らかに微笑んで童虎の名を嬉しそうに呼ぶだけだ。しかし、と彼は考える。己は男だ。押していかねばなるまい、色々と。
目を閉じた彼女の肩に手を置いて、そうっと顔を寄せる。
瞬間さやかに漏れた吐息も、袖をぎゅっと握ってくる手さえすべてが愛しいと思った。
5、瞼なら憧れ(ムウ)
きっと彼女は知らないだろう。彼女が思うより遥かにムウが彼女に焦がれていることを。
本当は躊躇なく差し伸べられる手を取りたい。抱きしめて、触れて、惜しみなく向けられる笑顔になにも隠すことなく微笑み返したい。
躊躇するのはいつか失われる日を思う故だ。それでも想いを通わせることができたなら。
貴鬼と寄り添って呑気に眠る娘の閉じられた瞼に、ムウはひそやかに唇を押し当てた。
6、手のひらなら懇願(カノン)
クラゲのようにふわふわとしていて、よそ見ばかりしているからその内自分の元から去ってしまうような気がしたのだ。
みっともない嫉妬であることはわかっている。しかし、近頃サガとばかりいるのを見るとどうにも我慢がならなかった。
「ま、まってカノン様」
強引にキスを試みるも慌てた彼女はダメ、と拒絶するよう小さな唇を手のひらで覆う。怯えるほど俺が恐ろしいか。途端に怒りではなくやりきれなさが胸を刺す。
自分の手より小さく薄いそれを引き剥がし、カノンは己の口元に引き寄せた。
「俺を見てくれ」
サガではなく、俺を。
情けなく掠れた声に彼女の手が、睫毛が震えた。
7、腕と首なら欲望(シュラ)
うなじから肩にかけてのなだらかな線に情を掻きたてられ、その輪郭をおもむろに指でなぞる。びくりと震えたことに構わず肩甲骨から腰へとなぞり続ければ、彼女は甘ったるい声を漏らさぬよう息だけを僅かに吐き出して、次いでで咎めるような視線をシュラに向けた。
「今日はもういやです」
散々したじゃないですか、と言外に含ませ背を向けて毛布の中に潜り込む。シュラはそれをやんわりとはぎ取り、今度は肩口から腕へと唇を這わす。まだ足りない。まだ欲しい。
堪えてばかりの彼女の声が聴きたいが為に、二の腕に歯を立て強く吸えばそこに新たな紅が咲く。
8、さてその他はみな狂気の沙汰(黒サガ)
お久しぶりですね、と彼女は凪いだ瞳で男を見た。かつての一瞬の邂逅を彼女は忘れず、彼もまた男の裡から長いこと彼女を見続けていた。
「覚えているのか」
「忘れたくても難しいです」
「俺が恐ろしいか」
「……今は、もうわかりません」
曖昧に微笑んだ娘に向かって手を伸ばす。辿りついた先は喉だった。片手ですら握りつぶしてしまえそうだ。――あの時はそうするつもりだった。
その度にいつも、己の中で善が止めろと喚いた。殺すな、壊すな、触れるな、と。
あれもこの娘を好いている。自分はどうだろうか。わからない。ただ彼女の目に映っていられるのはどうしてか心地が良いと思った。
見上げる女の首の後ろに手を添え、やんわりと喉を食む。震えた身体を逃がさないように抱き込んで、今この喉を食い千切ったならこの女はどんな顔をして死ぬだろうかと考えた。
(終)
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