LoS発売おめでとう! 改めて見るの楽しみです。
ということでおめでとうお祝いSSをしたためてみたので続きからどうぞ。
いつもの書庫番娘がどうやらLoS十二宮に行ったようです。どこ行っても復活設定。
それから取り急ぎ前回の日記でのクリスマス承りましたありがとうございます!
・青銅(瞬と氷河、でしょうか!)
ゆるゆると受け付けておりますので読みたいキャラクターいましたら拍手で教えてくださいね~。
「起きてください、書庫番殿」
浮遊感のあるまどろみから急に意識が引きずりあげられて、私は重い瞼を押し上げる。
思慮深い声のその人は、私の子供のようなしぐさに瞳を閉じたままで上手に苦笑いを作ってみせた。
(あれ、ここどこだっけ)
ぼんやりと辺りを見回すと、そこはどこか外国の図書館のような場所だった。
壁面の書棚いっぱいに天井近くまで本が並び、吹き抜け中央のドーム型のガラス窓からは白く淡い光が差し込みこの場所の神聖さと静けさを揺るぎないのものとしている。
――図書館……違う、書庫だ。そう、ここは聖域、十二宮直轄書庫。叡智の在り処。
私はこの書庫の書庫番、だったはず。そしてこの人は、
「えーと、シャカ様、ですよね」
「おや珍しい、寝ぼけているんですか」
ですがそろそろ起きてくださいね、と彼はなおも丁寧な口調で言う。
す、と静かにあげられた右手に、私は慌てて額を両手で押さえた。――あれ、でも、なんでこんな身構えているんだろう。とても優しい人なのに。
こんぐらがった意識を手繰り寄せようとすると、妙に記憶が霞んで感じる。
まだ寝ぼけているんだろうか。
頭をふるりと一つ振って目を覚まさせると、彼は「アテナがお呼びです、さあ急いで」と私の背を押した。
アテナ様が? 一体どんな御用かしら、と私はスカートの裾を翻して、小走りに書庫を飛び出した。
「よーう、書庫番ちゃん。お急ぎだねえー青春ってやつか?」
「キャンサー様おはようございます! 今日も素敵なコーラスですね!」
「やっと俺の美声に気付いたか、今日の書庫番ちゃん随分雰囲気違うねえ、もうちょっとここで遊んで行かない?」
「ごめんなさい、女神様がお呼びなので!」
「朝から騒がしいな、デートか? 相手はどいつだ?」
「カプリコーン様、お顔の傷どうしたんですか?」
「は? 昨日今日出来た傷じゃねーぞ、なんだ今更」
「そう、でしたっけ?」
「おはようございますカミュ様ー」
「ああ、君か。珍しいなそんなに急いで。そんなに走ると転ぶぞ」
「アテナ様に呼ばれているものですから!」
「よそ見してないで足元に気を付けなさい」
「はーい!(カミュ様の肩口が気になるなんて言えない……)」
通る宮通る宮、初めてのはずないのに今日はひどく物珍しく見えるのは何故だろう。
水を湛える幻想的な宝瓶宮を抜けたところで、私は双魚宮からこちらへ歩いてくる二人組を見止めて歩みを止めた。
薄い金の髪と、堂々輝くきらびやかな金の鎧。凛々しい顔つきのその人は、私の旧知の友人であるアイオリアだ。
もう一人は珍しく聖衣こそ纏っていなかったけれど、かしこまった礼服姿のミロ様だった。
二人と対面した途端、私の中でここに来るまでに感じた違和感がより一層強くなる。
「アイオリア、イメチェン、した?」
「? 何言ってるんだ、お前」
「だって、ピアスなんてしてたっけ?」
「……昔からしていたが」
アイオリアってピアスなんてしていたっけ。そういえばさっきカプリコーン様も似たようなこと言っていた。
いつも通りの十二宮。そう言われれば、そんな気もしてくるのに、なにか胸に引っかかる戸惑いはなんだろう。
今日の私はなんだか変だ。
じりじりと二人から後ずさる私に、アイオリアが訝しげに首を傾げる。
するとそれまで黙って私とアイオリアのやりとりを見つめていたミロ様が、つかつかと距離を縮め、私の手を強く引いた。
なぜか力が入らず、私は引かれるままに前のめりに倒れ込む。ミロ様はすかさず私を抱きとめた。……わあ、ミロ様スレンダーに見えたけど着やせするタイプだわ。
ぼんやりした頭でそんなことを考える私をよそに、こつんと合わされた額と額。
「熱があるな」
言うが早いか、ミロ様はひょいと私を抱えあげて歩き出した。
汗と艶やかな香水の香りの混じるのに揺られ、次第に瞼が重たくなっていく。
「ミロ、変わろう」
「無用だ。書庫番程度運べる」
「しかし――」
アイオリアとミロ様の声を聴きながら、私の意識は再びどこかへ落ちていくのだった。
***
「――いい加減に起きないか、書庫番よ」
「あだっ!」
呆れた声と共に、無防備に晒したままの額をぱちんと強く弾かれた書庫番娘は痛みと衝撃にぷるぷると肩を震わせながら顔をあげた。
そこは石造りの古びた埃っぽい書庫の中。カウンター内でうたた寝していた娘を起こした乙女座の黄金聖闘士に彼女はまばたきを数度繰り返す。
「アテナがお前をお呼びだ」
「……シャカ様?」
「寝ぼけているのかね? もう一回――」
「いーえデコピンは大丈夫です!!」
娘は慌てて立ち上がり、ひらりと文官衣の裾を翻して書庫前の庭を小走りに横切ろうとし、ふいに止まった。二人の聖闘士が歩いてきたためだった。
獅子座のアイオリアと、蠍座のミロである。
二人も書庫番を見つけ、アイオリアがおう、と片手をあげた。――が、次の瞬間、書庫番娘は普段から想像できない勢いと早さでアイオリアに詰め寄ると、手を伸ばして彼の顔をぐ、と自分の前に引き寄せた。
「!?」
「……ピアス、してない」
「していないししたこともないが」
「おい、変なものでも食べたのか?」
「ミロ様!」
彼女の異様な雰囲気に、ミロは気遣わしげに肩に手を置く。
すると娘は次にばっとミロに向き直り、
「……おい」
あろうことか、両手でぎゅ、と抱き着いてきた。
目をひん剥いたのはミロだけではない。常ならぬ気配に成り行きを見ていたシャカですら薄く目を開けてしまったほどだ。
ミロの胴回りに抱き着き、さわさわと身体の線を確かめるようになぞる手つきは痴女一歩手前である。
抱き着かれた本人は額に青筋を浮かべながらも、なかなかどうして振り解けず、そうかといって真昼の教皇宮の敷地内で不用意に年頃の女を抱きしめ返すことも出来ず。
穏やかな午後に不似合いな微妙すぎる緊張感の中で、やがて彼女は体勢はそのままにミロを見上げて安堵したように微笑んだ。
「ミロ様はやっぱり男の方ですよね」
「……」
はあー、という溜息はもう誰から出たものかすらわからない。
やはりこいつ可笑しなものを拾い食いをしたに違いないと、三人の黄金聖闘士は大変残念なものを見る目で不要書庫の番人を見つめるのだった。
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