「おはよう、アイオリア」
「ああ、おはよう」
「アイオリアお昼ごはん食べよう」
「構わんが、」
「アイオリア、アイオリア、本読み終わったから続き貸して!」
「……」
今日は随分とひっついて回るものだとアイオリアは目を眇めて書庫番娘を見下ろした。
常から二人は仲が良い友人同士ではあるのだが、普段はもっとさっくりあっさりしている、とアイオリアは思っている。
始終べったり一緒にいることは余りなく、互いに必要な時に手を差し伸べあうような、偶然顔を合わせたら食事にでも行くか、というような。
一体なんなんだ、と彼女の頬を抓りながら問えば、彼女はにこにこと笑って「占いでね」と話し始めた。
「今日さ、私の星座の運勢最悪だってラジオでいってて」
蚤の市で買ったぼろいラジオを聞くのが彼女の日課であることは知っていたが、そんな宛てにならない占いまで聞いていたのかとアイオリアは呆れの溜息をつく。
しかし彼女は大真面目だ。
「でもラッキーパーソンが獅子座の男の人だっていうから、これ以上ないってくらい適役がいるじゃない?」
アテナの聖闘士、レオのアイオリア。これ以上に心強い相手なんていない、と彼女は瞳をきらめかせて言う。
この瞳にアイオリアは弱い。混じり気なしに向けられる好意と親愛、信頼の色はどうにもむず痒くていつまでも慣れることがない。その癖、心地良いのだから困りものだ。
絆されていると思いながら、アイオリアは女の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「運勢が上向かなくても俺のせいにするなよ」
「しないしない! いいのよ、アイオリアといられるだけで運勢上がったも同然なんだから」
さて、その言葉の意味はどうとれば良いのやら。
アイオリアはあえて言及せずに彼女が続きを読みたいという本を本棚から抜きとった。
<終>