更新できないの申し訳なさ過ぎて今更感すさまじいけどバレンタイン(っぽい)小話とか…。
今年は聖域外のみなさんで書いてみました。
どこの闘士も癖が強くて愛しいですね。
アスガルド(黄金魂)からシグムンド、海界からカーサ、冥界からミーノスです。
シグムンド
春風のように軽やかな足どり、理知的な夜色の瞳、そして陽だまりにも似た可憐な微笑み。
聖域から颯爽と現れた親善の使者を一目見た瞬間、グラニルのシグムンドは彼女に恋に落ちた。
そう、一目惚れである。
しかし自他ともに認める無骨で真っ直ぐな闘士はこの手のことには不得手なようで、
「シグムンド様、これ、私の気持ちです」
いつも優しくしてくださってありがとうございます、と使者こと聖域の書庫番娘の贈り物にシグムンドは硬直した。
彼女の手にはリボンのかかった菓子の包みだ。
これはそういうことなのだろうか。ならば自分はどうするべきなのか。
男たるもの自分から愛の言葉を告げるべきか? それとも求婚の申込みか?
光速で脳内を駆け巡る過程三段飛ばしの選択も、けれど彼は決断を下すことができず。
「……お、俺が貰って、……その、いいのだろうか」
「勿論です! いつもお世話になってるんですもの」
お口にあうと良いのですけど、とほんわり微笑む彼女から、首筋まで真っ赤にしてぎこちなく包みを受け取るだけが今の彼には精一杯なのであった。
カーサ
ねえ私の心を覗いてみて。結構深いところに、貴方がいるはずなんですけど?
恐れのない真っ直ぐな視線がそうカーサを射抜くので、彼は思わず彼女が差し出す包みを引っ手繰り、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなった。
人の心が知ることのできるカーサにとって、この女の、きれいなものだけを見て生きてきたような心はとんでもなく奇妙で怖ろしく、また嫌悪を覚えるものだった。
そう、そのはずなのに、一体どうしたことだろうか。
「どうでした?」
「くそっ」
「良かった!」
覗いた心に確かに己がいたことが、そのことを厭うことなくあまつさえ喜んでいる己にカーサは気付く。
我が神よ、海皇よ、俺になぜ俺自身の心を見る術をお与えくださらなかったのか。
自身の心を掴みきれぬまま、押し切られる形で渡された包みを開ける。
姿を表わした菓子を渋々口に含むと、やたらめったら甘い味がした。
ミーノス
良く考えなくてものこのことついてきた私が悪かったのだ。
美味しいチョコレートがあるので、なんて言葉も中身も甘い誘いに裏や代償がない訳がないと忘れたわけではなかったはずなのに。
「まってなんでチョコレート食べるだけでなんでこんなことになっているんですか」
「食べさせて差し上げると言ったでしょう、わたしはわたしの言葉を実行しているまでのことです」
「いやでもこれはなぜ」
くん、と糸が纏わりついたような感覚を覚えたが最後、私の両手は私の意図しないままに頭上に掲げられて動かない。
痛みはないけれど、拒否する術を奪われた恐ろしさにつ、と背筋を嫌なものが伝う。
猫のように顎を指先で撫ぜられる。ふと顔が近づくと、色素の薄い前髪越しに嘲笑の色をした瞳が私を見ている。
やめて、の一言が零れる前に重なった唇が、舌が私の口内へ甘いチョコレートの欠片を押し込んでくる。
受け入れまいと抵抗すればするほど口付けは強引で乱暴になって、けれど、その一方で「受け入れて」とでもいうような必死の懇願を感じて切なくなったのは、どうしてだろう。
どろどろになったチョコレートともうどちらのものかすらわからない唾液を一緒に飲み干すと、ようやっと、それでも名残惜しそうに唇が離れていく。
「これで貴女をわたしの元に永劫縛り付けておけるでしょうか」
「アテナ様の加護とハーデス様の宣言があるから生憎とペルセポネにはなりませんよ」
「全く忌々しいことです」
心底憎らしそうに舌打った彼に私は嘆息する。
彼がこの身を優しく縛ったままの操り糸を早々に解いてくれることを祈りながら。
PR