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あすて雑記

鈍色の月明かり(カミュ)

カミュ誕生日おめでとう!
続きからカミュ小話です。

室内であるにも関わらず、吐く息はほんのりと白い。それだけ今夜は冷えるのだ。
毛布を身体に引き寄せながら起き上がる。
窓ガラスには霜が幾何学のレース模様を織り成していて、そこへ月明かりが差し込む様はさながら自然が作り出す芸術品だ。
ほう、とひとつ白い吐息を冷えた空気に溶かしながら、女は声にならない感嘆の声をひっそりとあげて窓辺に寄った。
――のだけれど、少女のような反応をした彼女の肢体は赤い指先を持つ男によってあっという間に引きずり戻されてしまう。
「今夜は冷える」
掠れた声で言いながら自分を毛布ごと抱き込もうとした男に、彼女は目をきょとりとさせて「カミュ様でも寒いと思う日があるんですねえ」とおっとりと首を傾げた。
抱き寄せられて近づいた広い胸をやんわりと押し戻して、少しだけベッドの上で距離を取ると、彼は不満げに眉を潜めもう一度長い腕を伸ばしてくる。
鈍色の明かりの中で、それでも赤い爪先は妙に鮮やかだ。
「きみが傍にいてくれないと、寒くて敵わない」
まるで拗ねたような声音を聞いた時の気持ちをなんと例えようか。
きっと彼の親友だという蠍座の黄金聖闘士も、彼を慕う白鳥座の少年も、海底の海将軍も、だれもこんな声を聞いたことが無いに違いない。
腹の奥がむず痒くなるような嬉しさと愛しさで口元が緩みすぎないように意識しながら、彼女は身体に巻きつけていた毛布を広げてカミュの上にかけた。
そのまま、自分も毛布に潜り込む。すかさずあの腕に捕らえられるが、今度は拒みもしなければ距離をとりもしない。
胸に頬を摺り寄せると、頭上でカミュが吐息だけで微笑んだのが聞こえた。
「あったかいですか?」
「うむ、ようやくな」
心地良い温かさを分け合いながらひそひそと交わす言葉の隙間に、次第にまどろみが二人を誘う。
やがて生まれた優しいしじまを、月明かりの鈍色だけが静かに照らしていた。
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